幹事クリタのコーカイ日誌2007

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8月30日 ● 夜神月の『人間失格』。

 僕たちが高校生の頃、文系学生は古今東西の名作文学を良く読んだものでした。戦前の旧制高校の学生のように哲学書を読んだりはしませんでしたが、少なくとも漱石や鴎外をはじめ、文学史に出てくるような文学作品のいくらかは読んでいないと恥ずかしいという感覚がありましたし、中には太宰や三島にかぶれるような学生もいました。

 最近の高校生は僕たちの時代に比べると圧倒的に読書量は少ないように見受けられます。少なくとも高校3年生の息子を見ていると、彼も彼の周りでもほとんど本なんてロクに読んでいませんし、今の流行りの作家ならともかく、明治から昭和の文豪の作品を読んでいるような高校生など絶滅寸前のように感じます。

 高校生でそうなんですから、中学生にいたっては携帯メールしか読んでいないのではないかと思っていたら、中学2年の娘がいきなり『人間失格』の文庫本を読んでいるではないですか。もちろんあの太宰治の「恥の多い生涯を送ってきました」で有名な『人間失格』です。かつて『坊ちゃん』を気まぐれで買ってくれと言われて買ってやったけど2ページで「読みにくい」と放棄した娘ですから、どうなることかと思っていましたが、すでに3分の1ほどを読み進めたようで、もしかしたらこのまま読み切ってしまうかも知れません。

 なぜ太宰、それもなぜ『人間失格』かと思ったら、なんといまこの文庫本が売れているんだそうです。理由は装丁にありました。集英社が今年夏に発売した名作の文庫新装版で、『人間失格』のカラー表紙を少年ジャンプでヒットした人気漫画『DEATH NOTE』の小畑健が描き下ろしたんだそうです。確かに表紙のデザインを見ると、あの夜神月を思わせるような少年が学生服で座っていて、まるで『DEATH NOTE』の小説版かと思ってしまいます。これなら確かにマンガファンが書店で目にとめて買っていきそうです。

 集英社文庫は他にも蒼井優の限定カバーをかけた『こころ』『友情・初恋』『銀河鉄道の夜』も出しています。こちらは男の子が買っていくんでしょう。もちろん、理由やきっかけがなんであれ、名作が若い世代に読まれるのは良いことなんで、やらないよりはやった方が良いのですが、果たして買った若者のどれだけがちゃんと中身まで読んだかは少々心配です。

 出版社としてはまず「売れる」ことが大事ですから、この『人間失格』の成功を真似て、すぐにでもジャンプキャラクター×名作文学のシリーズ化を進めそうです。ただ夜神月だからまだマッチしますけど、キン肉マンやアラレちゃんやルフィが谷崎潤一郎や芥川龍之介やトルストイの表紙カバーになったらどうなってしまうんでしょう?くれぐれも集英社の方たちにはマンガとのコラボは慎重にお願いしたいものです。